外国人労働者の社会保険と手続きのキホン!社労士解説
外国人雇用を行うにあたり、日本の労働保険や社会保険の制度は、外国人労働者にも適用されるのか疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
また保険制度の説明や手続きをすることで、自社や外国人材にどのようなメリットがあるのでしょうか。
今回は社会保険労務士である筆者が、保険制度全般の概要と共に、外国人材特有の内容について解説をしていきます。
目次
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外国人労働者は保険加入が必要?日本の社会保険制度
外国人労働者は、保険加入が必要でしょうか?
答えは、『条件を満たすのであれば、日本人と同様に加入が必要』です。
社会保険は日常生活でおこるリスクに備えるために設けられた公的保障制度であり、外国人労働者であっても適用されます。
日本の社会保険制度
上記の通り、日本にはさまざまな社会保険があります。
ここで言う外国人労働者の加入が必要な保険とは、就労に関係する保険である「労災保険」「雇用保険」「健康保険」「年金保険」の4つを指します。
いずれの保険も労働者の国籍に関わらず、条件を満たすのであれば、加入する必要があります。ただし、受入れ先の企業が個人事業なのか法人なのか、業種や従業員の数、労働者の所定労働時間や給与により、加入が必要な保険制度が異なります。
ではそれぞれの保険と加入条件や義務などを確認していきましょう。
健康保険(医療保険)
健康保険(医療保険)の制度においては、下記の2つがあります。
- 健康保険
- 国民健康保険
「国民健康保険」と「健康保険」は、疾病、負傷、出産または死亡に関して必要な給付を行う社会保障制度です。入院などで思わぬ出費をしたり、無収入になってしまうような事態に備えるためにあります。
民間企業などで働く場合、多くは国民健康保険ではなく健康保険に加入します。外国人労働者も同様です。
健康保険
先ほども説明した通り、民間企業などに勤めている人とその家族が加入する医療保険制度です。例えば、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)や組合管掌健康保険(健康保険組合)などがあります。
「強制適用事業所」(法定16業種)と「任意適用事業所」
以下の条件に当てはまる場合は「強制適用事業所」となるため、企業は健康保険に加入する義務があります。
- 法人:全ての法人が強制加入(事業主のみであっても強制加入)
- 個人事業:法定16業種に該当し、従業員数が常時5人以上
上記に当てはまらない場合は「任意適用事業所」となり、加入の義務は有りません。
適用対象者・適用除外者について
では、従業員はどうでしょうか。
従業員は、社会保険に加入しなければならない人<適用対象者>、加入しなくてもよい人や加入したくてもできない人<適用除外者>に分かれます。事業所が社会保険に加入していたとしても、従業員本人は加入しない場合があります。では、<適用対象者>と<適用除外者>について見ていきましょう。
<適用対象者>
1. 1週間の所定労働時間及び1か月の所定労働日数が、同じ事業所で同じ業務を行っている正社員などの一般社員の4分の3以上
2. 下記の全てに該当した場合
3. 週の所定労働時間が20時間以上
4. 2ケ月を超える雇用の見込みがある
5. 月額賃金が8.8万円以上
6. 学生ではない(休学中、夜間学生は加入対象)
7. 従業員501人以上の企業に勤務している ※1
※1 対象となる企業規模については、令和4年10月からは「常時100人超」、令和6年10月からは「常時50人超」となります。詳しくは『令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構』をご覧ください。
<適用除外者>
外国人労働者も日本と同じ条件が適用されます。
海外に居住する、外国人労働者の家族は扶養対象になる?
保険には扶養という制度があります。被保険者(保険に加入している従業員)の家族であり、年収の要件などを満たした場合に、扶養に加入することとなった外国人労働者の家族については、保険に加入しますが保険料はかかりません。
この家族の扶養について、外国人のみ適用される条件があります。日本の健康保険に加入している外国人労働者が、海外在住の親族を被扶養家族として健康保険に加入させたい場合です。
扶養に加入させたい外国人労働者の家族の方が、下記の要件を満たす必要があります。
◆日本国内に住所(住民票)を有していること
「外国人労働者の被保険者によって生計を維持されていること」とされる扶養家族の年収要件は、下記の通りです。
◆子供・親(60才以上の場合は年収180万円未満)
◆弟妹(年収130万円未満)
その他に海外特例要件などもありますが、レアケースになるのでここでは割愛します。
健康保険の保険料
健康保険の保険料は被保険者の給与の金額に応じて設定され、事業主と被保険者本人が負担します。
企業が加入している健康保険によって保険料率は異なります。全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)については、都道府県ごとに保険料率が設定されています。標準報酬月額等級表が掲載されていますので、参考にご覧ください。
▶参考:令和3年度保険料額表(令和3年3月分から)|全国健康保険協会
国民健康保険
日本は国民皆保険制度といって、国民全員が医療保険に加入できるように制度が作られています。健康保険の加入者以外は加入するのが国民健康保険です。
以下の条件の場合は外国人労働者も加入しなければなりません。
◆外国人労働者自身が、家族の扶養に加入しない場合
保険者は、「市町村」か「国民健康保険組合」です。どちらの保険者の運営に属するかは、条件によって異なります。
「市町村」の場合
市町村の区域内に住所を有する者は、市町村運営の国民健康保険の被保険者となります。ただし、健康保険に加入されている方、国民健康保険組合に加入されている方、後期高齢者医療制度に加入されている方など、対象外となる方もいます。
市町村運営の場合の保険料は、被保険者の昨年の年収に応じて決定されます。世帯において家族も国民健康保険に加入する場合には、その家族の保険料もかかります。
「国民健康保険組合」の場合
国民健康保険組合は、同種の事業または業務に従事する者で組織する団体です。
例えば、飲食業、美容業などの業種において、団体が設立されています。これらの組合員及び組合員の世帯に属する方が、被保険者となります。
国民健康保険組合運営の場合の保険料は、年収ではなく区分に応じて設定されています。組合員の保険料、組合員の世帯に属する方の保険料、といったように属性による区分があります。
労働保険
労災保険と雇用保険の二つを併せて労働保険と呼びます。それぞれの保険は以下のような保障を行います。
- 労災保険……労働者の業務上または通勤によって生じた、労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行う制度
- 雇用保険……失業し収入がなくなった場合、雇用保険継続が困難となった場合、自ら職業に関する教育訓練を受講した場合、育児休業を取得した場合、といった生活保障の制度
雇用保険
雇用保険制度は、下記のような構成です。一口に雇用保険といってもさまざま保障があることがわかりますね。
これらの給付は外国人であっても日本人と同様に受けられます。
「求職者給付の基本手当」が、いわゆる失業保険と呼ばれているものです。その他には、就職活動の支援となる「就職促進給付」、自ら職業に関する教育訓練を受講した場合の支援となる「教育訓練給付」、雇用保険継続が困難となった場合の支援となる「雇用継続給付」、育児休業を取得した場合の支援となる「育児休業給付金」など、外国人労働者にとっても重要な保障です。
雇用保険の加入要件
雇用形態、事業主や労働者からの加入希望の有無にかかわらず、要件に該当すれば加入が必要※で、外国人労働者においても日本人と同様に加入することとなります。技能実習生についても、要件を満たす場合には、加入が必要です。
昼間に学校に通っている学生は加入対象となりませんが、通信教育を受けている学生、大学の夜間学部や高等学校の夜間または定時制の学生は、上記の加入要件を満たす場合に、加入対象となります。
雇用保険の適用事業所に雇用される労働者で、次の労働条件全てに該当する場合は被保険者となります。
◆31日以上の雇用見込みがあること
※季節的に一定期間のみ雇用される方など、一部被保険者とならない場合があります。
加入が適用されない場合
下記の要件に当てはまる場合、雇用保険に加入することができない場合があります。
1. 1週間の所定労働時間が20時間未満となる従業員
2. 同一の事業主の適用事業において継続して31日以上雇用されることが見込まれない従業員
3. 昼間に学校に通っている学生
ただし、休学中の方や企業から承認等を受けて就業しながら大学院などに在学している方などは加入対象。
4. 在日外国人で、ワーキングホリデー制度による入国者及び留学生(昼間学生)
5. 国外にて、現地採用した外国人材
出張や海外支店などへの転勤により国外で就労する場合などは、国内の出向元との雇用を継続している限り加入を継続できます。
6. 2以上の適用事業主に雇用される人
副業等により2社以上の企業で働く場合、複数の企業で加入要件を満たしたとしても、加入できるのは1社のみとなります。二重加入はできません。
雇用保険加入の手続き
次は、外国労働者の雇用保険加入手続きについて説明します。
日本人と同様に、雇用保険資格取得届を使用しますが、外国人労働者の場合は下記の内容も記載する必要があります。
④在留資格 ※在留カードに記載された通りに記載。在留資格「特定技能」の場合は分野、「特定活動」の場合は活動類型まで記載
⑤資格外活動許可の有無 ⑥在留カード番号
⑦雇入れに係る事業所の名称及び所在地
⑧派遣・請負就労区分(派遣・請負労働者として就労する場合)
雇用保険加入しない外国人労働者の場合は、外国人雇用状況届出書を必ず提出する
外国人を雇用する事業主は、外国人労働者の雇入れ・離職の際、ハローワークへ「外国人雇用状況の届出」を提出することが義務付けられています。
雇用保険に加入する場合は、雇用保険の手続きがこの「外国人雇用状況の届出」代わりとなります。雇用保険の手続きをしない場合は、外国人雇用状況届出書<様式第3号>を作成し、ハローワークへ提出を必ず行いましょう。
提出期限は、雇入れ・離職の場合ともに翌月の末日までなので、出し忘れないように注意が必要です。提出を忘れた場合、罰金として最大30万円を課される可能性があります。
届出に氏名などの記入をするのはもちろんですが、在留資格、資格外活動許可の有無(在留資格「留学」等の場合記入)、雇入れ年月日、外国人が就労する事業所の情報などの項目があります。
「主たる事務所」の欄は就労する事業所が店舗や工場などの場合に記載が必要なので注意してください。
退職する場合の手続き
退職する場合も日本人同様手続きが必要です。詳細は以下の記事をご覧ください。
労災保険
労災保険は、仕事中や通勤に関するケガや病気、亡くなった場合に被災労働者や遺族を保護するための保険です。請求して審査が通った際に、給付が受けられます。
一人でも労働者を雇用する事業主は、事業の規模に関わらず従業員を労災保険に加入させなければなりません。アルバイトやパート等の雇用形態は関係ありません。外国人労働者も、日本人と同様に労災保険が適用されます。
主な給付内容としては、下記のようなものがあります。
◆休業補償給付:休業補償(労災の対象となるケガや病気等で、仕事ができない状態の場合)
◆傷害補償給付:労災の対象となるケガや病気は治ったけれども、障害が残った場合に年金か一時金を支給
◆遺族補償給付:労働者が亡くなった場合に遺族へ年金か一時金を支給
厚生労働省にて、外国人材向けに労災保険の給付に関するパンフレットを公表しています。外国人材への各給付の説明には、こちらをお渡しすることをお勧めします。
外国人材雇用や雇用後の支援についてのお困りごと・ご相談ならマイナビグローバルへ。
介護保険
外国人労働者も、日本人と同様に介護保険に加入することとなります。
介護保険制度について、厚生労働省が多言語にてリーフレットを公表しています。外国人材への各給付の説明には、こちらをお渡しすると理解しやすくてよいでしょう。
▶介護保険制度について40歳になられた方(第2号被保険者)向け|厚生労働省
年金保険
年金保険は、国民年金と厚生年金保険があります。外国人材も、日本人と同様、加入が必要です。
国民年金と厚生年金の違いは以下の表の通りですが、日本人の場合と外国人の場合で違いはありません。
法人に勤め、社会保険への加入条件を満たしている人は、厚生年金保険へ加入することとなります。法人に勤めているけれども適用除外者に該当する人は、国民年金へ加入することとなります。
厚生年金保険は、国民年金と合わせて支給されるものとなるため、福利厚生として手厚いものとなっています。
国民年金 | 厚生年金保険 | |
加入対象者 | 20〜60歳の全国民 (自営業者やフリーター、学生、無職者、主婦などの第一号被保険者・第三号被保険者) | 会社員や公務員(第二号被保険者) |
基本的な給付内容 | 老齢年金、障害年金、遺族年金 | 左記に同じ |
付加年金 国民年金基金 | あり | なし |
配偶者加給年金 | なし | あり |
保険料 | 一定額、全額自己負担 | 給与・賞与の支給額による 企業と本人が負担 |
扶養 | なし | あり |
脱退一時金 | あり | あり |
脱退一時金とは
外国労働者に関わる制度としては、脱退一時金という制度があります。
外国籍の方が、国民年金・厚生年金保険の被保険者資格を喪失して日本を出国した場合、日本での住所がなくなった日から2年以内であれば、脱退の際の一時金を請求することができる制度です。
いずれ母国に帰国する可能性がある外国人労働者の方は、年金保険料を支払うことに抵抗を感じるかもしれません。しかし、脱退一時金制度がありますので、年金保険料の掛け捨てをせずに、支払った保険料の返還をしてもらうことができます。
このことは、ぜひ外国人労働者の方に説明してほしい情報です。
社会保障協定
もう一つ、外国人労働者に関係する事項として、社会保障協定があります。
社会保障協定とは、各国の社会保障制度において保険料の二重負担や年金受給資格の問題を防止するために、加入すべき制度を二国間で調整し、年金加入期間の通算ができるようにする二国間の協定のことです。
協定を結んでいる相手国の年金制度の保険料を支払ったものとして扱われることとなるため、外国人労働者の出身国が社会保障協定を結んでいるか確認をしましょう。母国へ帰国して就労する場合には、その自国の年金保険料を払った扱いとなるため、脱退一時金を利用する必要はありません。
このように、外国人労働者の社会保障に関するデメリット対策も用意されていますので、活用できるように企業の担当者からも、説明してあげることが大切でしょう。外国人労働者の方が保険の加入を躊躇っている場合も、このような制度を知ることで気持ちよく加入してもらえることが多々あります。
社労士からのアドバイス
社会保障制度や、外国人特有の制度などについて外国人材にきちんと説明をし、理解してもらうことは、外国人労働者の方々に長く日本で働き続けてもらう第一歩です。説明を怠ると、不満などから退職に繋がってしまうこともあります。
ぜひ、説明の機会を設け、困った際には外国人労働者にとっても備えとして社会保障制度を活用していただきたいです。