注目の特定技能「介護」は技能実習と何が違う?要件や試験についても解説
特定技能「介護」は、介護職に就くことができる在留資格のうちの一つです。介護職に就ける在留資格には、「介護」、「EPA」、「技能実習」、特定技能「介護」の4つがあります。「介護」以外は介護福祉士の資格がなくても介護の仕事に従事できます。
そのなかでも、介護職として働いてほしい場合におすすめの特定技能「介護」は、他の在留資格と比較してどのような特徴があるのでしょうか?
今回は、特定技能「介護」について、対応可能な仕事内容や、試験の概要などについてご説明します。
目次
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特定技能「介護」とは
特定技能「介護」は、就労を目的とした在留資格の一つです。介護分野において深刻化する人手不足を解消するため、2019年に施行されました。
特定技能「介護」では、1年・6ヶ月または4ヶ月の更新を行いながら、通算5年まで日本で働くことができます。
特定技能「介護」で介護の仕事をする場合、介護福祉士の資格は不要です。しかし、在留資格を取得するためには、既定の試験に合格する必要があります。特定技能の詳細については、別の記事で解説しましたので、ご覧ください。
事業所における受け入れ上限はある?
特定技能「介護」の外国人は、事業所単位で日本人の常勤職員数よりも多く受け入れることはできないと定められています。極端な例ですが、特定技能外国人だけの事業所を作ることはできないということです。
▶参考:介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針|厚生労働省
重要!特定技能「介護」で対応できる業務は制限が少なく幅広い
特定技能「介護」は、対応できる業務の幅が広く、制限が少ないことが特徴です。
具体的には、訪問系サービスを除いた、身体介護と付随する支援業務を行うことができます。技能実習生はできない一人夜勤も可能です。
訪問系サービスに従事できなくても、それ以外の業務に制限がないことはかなりのメリットです。
特定技能「介護」の試験概要
特定技能「介護」の試験は、介護業務に関する「介護技能評価試験」と、「日本語能力試験(2種類)」に分かれています。
技能試験、日本語試験ともに筆記試験で行われ、実技試験はありません。なお、介護分野の技能実習3年を良好に修了した場合や、介護福祉士養成施設を修了している場合は、試験が免除されます。
日本語試験は、「日本語能力試験(N4以上)」または「国際交流基金日本語基礎テスト」に合格することに加え、「介護日本語評価試験」に合格することが必要です。
介護日本語評価試験もCBT試験であり、指示文が現地語、問題文は日本語です。試験水準としては、介護の声掛けや文書等、介護業務に従事するにあたって支障のないレベルの日本語が設定されています。
試験のサンプルや詳しい情報は以下の記事で解説していますので、ご覧ください。
介護ができる他の在留資格との比較
外国人を介護職員として雇用したい場合、特定技能「介護」を含めて4つの在留資格が存在します。ここでは、それぞれの在留資格の特徴をまとめました。
在留資格「介護」
2017年9月から始まった在留資格「介護」は、介護福祉士養成学校を卒業し、「介護福祉士」の国家試験に合格することが条件の在留資格です。在留期間の上限は設定されていませんので、更新を行う限り永続的に日本で働ける資格です。業務の制限もありませんので、訪問系サービスに従事させることも可能です。
ただし、日本語能力がかなり高い人・国家試験合格者しか取得できない資格のため、母数が少なく、採用は難しい傾向にあります。
採用企業が、介護福祉士養成学校の費用も出すケースが多く、その場合は費用も数百万円かかります。
特定活動EPA
EPA(経済連携協定)に基づく在留資格です。送り出し国はインドネシア、フィリピン、ベトナムに限定されています。現状として、母数が少ないという特徴があります。
この制度は、国家間の経済的な連携強化と、「介護福祉士」の国家資格取得を目的とした制度のため、一定の期間内に資格を取得できないと帰国しなければなりません。資格取得後は制限なく更新ができるため、永続的に働くことができます。
従事できる業務としては「介護保険3施設、認知症グループホーム、特定施設、通所介護、通所リハ、認知症デイ、ショートステイとされており、介護福祉士の資格取得後は、一定条件を満たした事業所の訪問系サービスも可能となります。特定技能の場合と同じく、訪問系サービスには制限がかかることが特徴です。
技能実習「介護」
技能実習「介護」は日本から相手国への技能移転(国際貢献)を目的としており、学歴・資格などの要件は基本的にありません。1年目は「技能実習1号」、2~3年目は「技能実習2号」、4~5年目は「技能実習3号」となっており、合計で最長5年の滞在が可能です。こちらも訪問系サービスはできません。
技能実習「介護」の外国人は、母数が増えてきたので、成熟してきた制度と言えます。一番採用しやすい在留資格です。ただし、何も知らないところから育成するので介護の業務がスムーズにできるようになるまでに時間がかかります。
4つの在留資格のメリット・デメリットを表で解説
ご紹介した4つの制度の違いと、メリットとデメリットを比較します。
特定技能「介護」 | 在留資格「介護」 | EPA | 技能実習 | |
---|---|---|---|---|
業務の制限 | 制限あり (訪問系サービス不可) | 制限なし | 制限あり (介護福祉士の資格を取得すれば、一部訪問系サービスへの従事が可能) | 制限あり (訪問系サービス不可) |
在留期間 | 上限5年 | 制限なし | 原則4年 「介護福祉士」の資格取得後は制限なし | 技能実習1~3号あわせて最長5年 |
日本語能力 | 入国前の試験で、技能及び日本語能力を確認 | 介護福祉士養成校の入学者選抜の時点で、 N2を要件としているところが多い | インドネシア・フィリピン……N5 ベトナム……N3 | 入国時N4、2号に移行時にN3 |
母国での 能力や学歴 | 個人による。要件はなし。 ただ、上記試験に合格するか、 技能実習からの移行の場合は2年以上の実務経験がある。 | 個人による。要件はなし。 | 母国で看護系学校を卒業しているか介護士として認定されている。 | 監理団体の選考基準による。 |
メリット | 実務経験か、試験合格が要件になっているので、 基礎的な介護の知識を持っていると言える。 現場に出るまでの講習機関が数時間程度と、かなり短くて済む。 定期報告は3ヶ月に1回、定期面談を行う。 報告の負担が少ない。 | 外国人の日本語能力が高い場合が多い。 介護の専門知識がある。 訪問系サービスを行うことができる。 | 母国での学歴などが要件になっており、人材の質が一定している。 制度の目的が介護福祉士の育成なので、国からの支援もある。 | 国内の監理団体が研修などを行ってくれる。 |
デメリット | 訪問系サービスを行うことができない。 外国人支援を内製化できない場合、 登録支援団体に支払う料金が毎月発生する。 | 受け入れ調整機関がないので、介護施設が自主的に採用活動をしなければならない。 | 採用が決まってから介護の現場に出るまでの講習が1年程度と長い。 また、介護福祉士の資格取得のためには実務者研修450時間が必要。 | 訪問系のサービスを行うことができない。 配属後6か月間は人員配置に含められない。 資格や経験は要件になっていないので、介護の現場に出るまでに3カ月程度の講習が必要。 技能実習状況は日誌に毎日記録。 監査報告書は3ヶ月に1回、事業報告書、実施報告書は年に1回。 |
特定技能を選ぶべき理由
特定技能を選ぶべき理由は、以下の6点です。
- 基本的な介護について、テキストで学べるレベルでは知っていて、日本語を使った声かけができる
- 雇用後すぐに配置基準に含められる
- 新設から3年間未満でも導入できる
- 初年度から日本人常勤介護職員数まで採用できる
- 技能実習と比べて報告の負担が少ないので管理が比較的楽
- 業務範囲が広く、訪問系サービス以外の業務ができる
採用前後の工数や時間を考慮しても、特定技能「介護」の外国人を採用するメリットは大きいです。
特定技能「介護」での就労を希望する人材をご紹介しています。資料請求・採用の無料相談はこちらから
外国人介護士受け入れを行っている施設へのインタビュー記事はこちら。現場のリアルな感想を伺いました。
特定技能から在留資格「介護」へ移行するには
特定技能「介護」の期間の上限に達して帰国する場合ももちろんありますが、将来的に長く日本で働いてもらう場合は、更新の制限がない在留資格「介護」への移行も一つの手段です。在留資格「介護」は、介護福祉士の資格取得が必須です。介護福祉士の国家試験を受験するためには、3年間の実務経験と、実務者研修修了が要件になっています。
ここでは、特定技能から在留資格「介護」に移行するためのルートを紹介します。
特定技能→在留資格「介護」
特定技能で働ける5年の間に介護福祉士資格を取得すれば、在留資格「介護」へ移行することができます。
介護福祉士試験の受験に必要な実務経験は3年なので、最短で3年間の実務経験に試験までの日数、登録にかかる日数などを含めて、在留資格「介護」に移行するまで4~5年程度は必要と考えておきましょう。
技能実習→特定技能→在留資格「介護」
技能実習2号を良好に修了(3年間)して、特定技能に移行後、介護福祉士資格取得することで在留資格「介護」に移行できます。こちらは、特定技能に移行後にいかに早く資格取得できるかが問題です。
技能実習の場合、入国時には介護に関する知識は何も持っていません。その状態から学習を始めて、実務経験3年間については充足できたとしても、すぐに試験合格できるとは限りません。
特定技能「介護」の現状
ここからは、特定技能「介護」の試験状況について解説していきます。
日本国内の実施回数は最多 海外ではフィリピンが多い
日本国内でも試験が実施されています。日本の各都道府県にあるプロメトリック試験会場で、ほぼ毎日試験日程が設定されています。地域によっては土日祝日の時間枠がないことや、平日でも受験できない曜日があることがあります。合格者数は2021年2月21日時点で280名と、フィリピンと比較すれば少ないです。
海外での試験状況
特定技能「介護」の在留資格取得のための試験は、海外と日本で実施されています。
フィリピン:他の海外試験地と比較して抜群に受験の機会、合格者数が多いです。
フィリピンは受け入れの独自ルールがある
フィリピンは試験実施回数が多く受験者も日本国内試験よりも多いので、人材が安定供給されています。しかしながら、独自ルールが多いため、対応できるエージェントに依頼した方が良いでしょう。
独自ルールとして、雇用契約書の事前チェックとガイドラインが挙げられます。
フィリピンには、海外で働く人の権利を守るための海外雇用庁(Philippine Overseas Employment Administration /POEA)という省庁があります。その海外出先機関が海外出先機関であるPOLO(Philippine Overseas Labor Office)です。
フィリピン人が特定技能外国人として日本で働きたい場合、POEAが日本での雇用契約などを事前にチェックするという仕組みになっています。
また、日本政府とフィリピン政府の間では二国間協定を締結しています。この二国間協定に基づいて、フィリピン労働雇用省(DOLE)は「特定技能の在留資格における日本への労働者の送出しに関するガイドライン」を発表しました。
概要は、以下の通りです。
- 送出機関名の公表、海外雇用証明書(OEC)の発行条件・手続き
- 労働者からの費用徴収等(日本への送り出しに関していかなる手数料も徴収してはならない旨)
- 所定の手続きを経れば送出機関を介さずに受入機関が直接労働者を雇用可能(日本の受入機関が、5人以下の労働者を雇用する場合)
- 受入機関の送り出し機関との契約数の制限
フィリピンの特定技能外国人を受け入れる場合については、独自のルールがあることをおさえておきましょう。
まとめ
特定技能という在留資格は創設からまだ日が浅く、これから人数が増えていくと言われています。現在、在留資格「介護」や「EPA」などは、学歴や資格取得など、在留資格を得るまでのハードルが高いことが特徴です。
特定技能「介護」以外でも介護職に就くことはできますが、企業としては採用・管理・教育のコストを考慮すると、特定技能「介護」が一番経済的に外国人を受け入れることができる可能性が高いです。
他の在留資格と比較して、特定技能は人数を多く確保しやすく、制度的に利用しやすいことが特徴です。
業務範囲が広く、人数も増えていくと見込まれることから、特定技能「介護」は非常に期待されています。これからますます普及していくでしょう。介護の現場に、特定技能外国人の受け入れを検討してみてはいかがでしょうか。