解決の糸口は外国人採用!ホテル・旅館の人手不足対策の方法を解説
新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために行われた移動制限や水際対策が終了し、人流が活発化するに伴い、日本人だけでなく訪日観光客の旅行も活発になりました。
以前の客足に戻りつつある宿泊業界ですが、一方で従業員の人材不足が深刻化しています。いったいなぜなのでしょうか。
本記事ではホテル・旅館の人材不足の原因・対策方法を中心に解説していきます。
目次
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日本の人手不足の現状
宿泊業界に限らず、日本では多くの分野で人手不足が加速しています。さまざまな要因から人手不足は起こっていますが、中でも深刻なのが生産年齢人口の減少です。
生産年齢人口とは「生産活動に就いている中核の労働力となるような年齢の人口」を指し、基本的には15歳~64歳をいいます。
内閣府は、2065年には日本の生産年齢人口が現在から約4割近く減少すると予想しています。さらに、14歳以下の人口も緩やかに減少を続けています。一方65歳以上の人口は1990年以降に大きく増加し、2020年を境に停滞します。少子高齢化が2020年を境に加速していることがわかります。
このように日本全体で働き手の母数が減少していることから、人手不足とされる業界では更に厳しい働き手不足が起こっているのです。
ホテル・旅館などの宿泊業における人手不足の現状
日本商工会議所によると、宿泊業においては約8割の企業が人手不足であると回答しています。運輸業、建設業などを抑え、宿泊・飲食業がトップとなっています。
人手不足を実感している宿泊施設は多いかと思いますが、他業界以上に人手不足であることにはなかなか気が付かない人も多いのではないでしょうか。
では、有効求人倍率を見てみましょう。
全職業における有効求人倍率が1.38倍であるのに対し、宿泊業分野では6.15倍とかなり高い水準です。その中でも特に、飲食物給仕係の不足が大きいことがわかります。
また、新型コロナウイルスによる危機を迎えていた時期から旅行需要が回復してきたことで、ホテルや旅館の現場では人手が足りていません。人手が足りないことで満室になると対応しきれないため、予約できる部屋数をあえて制限している宿泊施設もあるほどです。
宿泊(ホテル・旅館)分野の人手不足の原因
ではなぜここまで宿泊分野の人手不足が続いているかというと、労働環境が大きく影響しています。他業種と比較して、長時間勤務であるうえに有給休暇も取得しにくくなっています。
勤務形態も変則的で、朝早く出勤し宿泊客のいない時間に休憩、夜勤もあるなど拘束される時間が長くなります。
また、賃金の面においても、全産業平均に比べて低水準であることが、以下のグラフからわかります。
このような労働環境、就労条件などにより、敬遠されているものと予想されます。
また、コロナ禍に解雇となり他業界へ流出した人材がなかなか戻ってきていない状況にあります。一方、ラグジュアリー系ホテルの開業が相次いでいること、インバウンド需要が回復傾向にあることから、今後は更なる人材の奪い合いが起きることが予想されます。
人手不足の対策方法
人手不足の対策方法としてはどんなことが可能でしょうか。
労働環境の改善
先述の通り、宿泊業界の労働環境・就労状況は人手不足の大きな要因となっています。早急に改善しなければ、たとえ入社したとしてもすぐに離職してしまうでしょう。
給与の引き上げや勤務日数、勤務形態の検討はもちろんのこと、休暇の取得についての見直しなども検討できるとよいでしょう。また、休息時間の充分な確保、シフトの人員数の見直しなどを行うことも重要です。心身の健康維持やモチベーションの向上へと繋がります。
また、女性が多い業界ということもあり、産前産後休業、育児休業、介護休暇、時短勤務などの取得を推進することや、柔軟な対応が可能な体制作りを検討していきましょう。
業務効率の改善
ホテル・旅館の運営においてもITを取り入れて業務効率を進めるホテルが増えています。IT化は従業員のメリットになることはもちろん、利用者の手続き簡略化・快適な宿泊の提供へと繋がるからです。
例えば、フロント業務ではスマートチェックインなどを取り入れ、手書きの宿泊者カードのIT化が行われています。カードにかかる経費を削減できることはもちろん、宿泊者情報の保管・監理がしやすくなるなどのメリットがあります。
昨今導入が進んでいるのはロボットで、フロントから各階、客室などへの荷物運びやルームサービスの提供などを行います。また、ホテルやファミリーレストランでは料理の配膳をおこなうロボットも導入されており、エンターテインメント性も相まって話題になっています。そのほかにも、紙や口頭伝達が中心となる情報共有も、タブレットやモニターシステムの導入で効率化を図ることが可能になってきました。
これらの改善事例は以下の観光庁のページにも記載されていますので、参考にご覧ください。
▶参考:改善事例一覧|観光庁
外国人を雇用する
近年増加しているインバウンドへの対策として外国人雇用が進んでいることは、みなさんご存知の通りです。コロナ禍で海外からの渡航が減少していましたが、入国緩和措置により、需要復活の兆しが出てきました。
更に昨今ではインバウンド対策としてだけでなく人手不足対策としての雇用も増えてきました。若い働き手を獲得しやすいことや、日本語を活かして働きたいという若い人材が集まりやすく、雇用の大きなメリットと言えるでしょう。外国人を採用したいと宿泊施設の方からの当社へ問い合わせいただく件数も増えています。
ホテル・旅館で外国人を雇用するには?
外国人なら誰でも雇用できるわけではなく、雇用できる外国人とそうでない外国人がいます。また、対応可能な業務範囲も在留資格ごとに決まっている場合があります。外国人を雇用するためには、まずは任せたい業務がどの在留資格で可能なのか確認しなければなりません。
ここからは、ホテル・旅館での業務別に適した在留資格の種類を紹介します。
在留資格とは、外国人が日本に滞在して特定の活動を行うことを入国管理局が許可した、滞在許可のようなものです。この「特定の活動」には就労が認められているもの、認められていないもの、就労の範囲が限定的なもの、就労時間に制限があるものなどがあります。
【ホテルの業務と在留資格】
サービススタッフなら在留資格「技術・人文知識・国際業務」
サービズスタッフ(接客員)の定番在留資格は「技術・人文知識・国際業務」です。
外国人がこれまで学んできた知識や仕事で培ってきた経験、母国の文化や言語に関する知識と関連性のある業務に従事することが可能な在留資格です。よって、専門知識を必要としない業務や、外国人本人の学歴・職歴や文化などと関連しない業務には就くことができません。ホテルや旅館で働く業務なら、配膳やベットメイキング、掃除などの単純労働には従事できないことになります。
ホテルや旅館で従事可能な業務は、主に「フロント業務」「オフィスワークなどの事務系業務」の2種類です。
また宿泊の場合は「国際業務」の枠となるためフロント業務の場合は通訳や翻訳といった外国人への対応が必要、事務系業務もインバウンド系企画を考案し広報する必要があるホテル、という前提が必要です。留学生などの四大生が取得する在留資格であるため、日本語が堪能で、日本生活の経験やアルバイト経験などを持っており、受け入れやすい点がメリットですが、在留資格の許可は年々厳しくなっており、採用競争の高い在留資格となっています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。不許可事例も解説しています。
料飲部門スタッフなら特定技能「外食」
ホテルや旅館のレストランでの配膳や調理などであれば、在留資格は特定技能「外食」が該当します。
外食分野で働ける在留資格のため、ホテルのフロント業務などはできません。レストランなどを併設しているホテルも多いため、宿泊以外の分野から人材を確保するということもひとつの手段ではないでしょうか。
特定技能のなかでも外食分野は外国人求職者から人気の分野であり、対象人材も多めです。人材獲得における競合が外食業の企業となりますが、外食企業の給与水準は高い傾向にあり、雇用条件は注意が必要です。
客室清掃スタッフなら特定技能「ビルクリーニング」
清掃業務がメインであれば、特定技能「ビルクリーニング」が該当します。特定技能のなかで、事務所や学校、興行場、店舗など、不特定多数の人が利用する建築物の清掃業務ができる分野です。
基本的には日常清掃、定期清掃などの清掃業務の分野ですが、ベッドメイク作業などの一定の範囲であればホテルや旅館でも働けます。ただし、受け入れにあたって建築物清掃業又は建築物環境衛生総合管理業の登録が必要となります。
清掃業務の人気はあまり高くないため、求職者は少ない傾向です。
幅広く業務を任せたい場合なら特定技能「宿泊」
幅広く業務を任せた場合は、特定技能「宿泊」が当てはまります。ホテルや旅館ではフロント業務はもちろんですが、メイン業務でなければ、ベットメイキングや料理の配膳などの単純労働も含む幅広い宿泊サービス業務についてもらうことが可能です。
特定技能の取得には試験への合格が必要ですが、現在一定数の合格者数はいるものの、在留数が少ない状況です。
特定技能外国人の採用をスムーズに行うための知識が手に入る!お役立ち資料はこちら。
ホテル・旅館・宿泊業界における外国人雇用の今後の展望とは?
未来を予測しづらかった新型コロナウイルス感染拡大期間と違い、見通しが立ったことでホテル・旅館などの宿泊業界における採用競争は激化していくことが間違いありません。しかし、特定技能の宿泊分野における在留人数は伸び悩んでいます。
令和4年12月末時点において特定技能「宿泊」の試験合格者数は4,161人、そのうち在留する外国人は206人、在留資格「宿泊」で就労する外国人はわずか5%で、2019年から2023年度末までの受け入れ見込み数を最大1,1200人としていますが、これにまったく満たない状態です。
特定技能のなかで在留数が多い外食業を見てみると試験合格数が25,385 人、在留者数は5,159人で20%が特定技能で就労をしていることになります。宿泊分野では、試験合格者は一定数いるものの、多くは就労に結びついていないという現状が伺えます。要因は明らかになっていませんが、宿泊分野で働きたい外国人が高度人材である技術・人文知識・国際業務へ流れてしまっている可能性は否めません。
このような事情もあり、外国人材の需要は技術・人文知識・国際業務で在留する外国人に集中している状況です。
インバウンド需要が本格的になって採用競争が激化していく前に、早めに動き出すことをおすすめします。